かかりつけ医から、在宅での高カロリー輸液の提案をしていただいたとき、
「えっ!?いつも入院中にしているエルネオパ、自宅でできるの?」
「そんなのもっと早く教えてよー」
と、内心思ったもの。
なぜなら、大腸がんにより大腸のすべてと小腸の半分以上を失ってしまった母は、長年にわたり栄養摂取が悩みの種だったからです。
それに、すでに点滴(低ナトリウム血症を防止する)を自宅で行っていたので、さほど抵抗を感じなかったこともあります。
点滴が1、2回増えようが、今さらです。
あれから4年。
母は、口からの栄養の不足を週に1~2本の高カロリー輸液で補っています。
今回は、在宅で高カロリー輸液を検討されている方に、少しでも役立てていただけるよう解説したいと思いますので参考にしてみてください。
目次
栄養を補うために17年間強いられていたこと
長年、母はエレンタールを服用してきました。
エレンタールとは、食事がとれないときや消化・吸収力が弱っているときに用いる総合栄養剤のことです。
糖質を中心に、アミノ酸、ビタミン、ミネラルなど体に必要な栄養分が吸収されやすいかたちで配合されています。
難点は、これがとにかくマズイ(-_-;)
飲みづらいと訴えるので、味見をしたことがありますが2度と口にはしたくないシロモノです。
少しでも飲みやすいようにと、オプションでフレーバーなるものが何種類かあって味変ができるのですが・・・
薬だと割り切っても、1回300mlのノルマは地獄の沙汰です。
それでも、母は年に1、2度栄養失調でダウンしては入院を余儀なくされていました。
「中心静脈栄養」とは
点滴で、 血管に栄養を注入する方法は2種類あります。
1つは、腕や手の甲などの細い血管に針を刺し栄養を注入する末梢静脈栄養。
通常、「点滴」と呼ばれるやり方で栄養を入れる方法です。
もう1つは、中心静脈栄養。
中心静脈栄養とは、心臓近くにある太い静脈に水分・電解質・栄養を補給する高カロリー輸液の点滴です。
一般的には、鎖骨下を通る静脈から中心静脈にカテーテルを挿入して栄養を注入します。
在宅で、栄養療養が可能なのはこちらの方です。
母が、処方されている高カロリー輸液(エルネオパ)を製造している大塚製薬のホームページに詳細があるのでリンクを貼っておきます。
TPNは高カロリー輸液とも呼ばれ、高濃度の栄養輸液を中心静脈から投与することで、エネルギーをはじめ、からだに必要な栄養素を補給することができます。栄養状態の悪い患者さんや、長期間(1週間以上)経口摂取ができない患者さんに用いられます。通常は、糖質、アミノ酸、脂質、電解質(Na, K, Cl, Mg, Ca, P)、微量元素およびビタミンの1日必要量を中心静脈から24時間かけて投与します。(大塚製薬HPより)
「末梢静脈栄養」と「中心静脈栄養」の共通点と違い
一般的な点滴と中心静脈栄養の共通点、相違点を把握することによって、両方の特性がより分かりやすくなるかと思います。
共通している利点は、消化管を通さなくても水分・栄養の摂取が可能になること。
胃や腸など手術したとき、これらの気管を休ませることができることです。
異なる点は、輸液の濃度と使用する期間が挙げられます。
輸液の濃度
末梢静脈栄養は、1日に投与できるカロリーは1000が上限。
高濃度の輸液が投与できない理由。
液体を触れば分かりますが、高カロリー輸液は粘度や濃度が高いためベタベタです。
それを末梢静脈などの細い血管から投与すれば、血管の炎症や詰まりなどにつながってしまいます。
また、カテーテルの針や栄養輸液の浸透圧などが影響して、血管痛や静脈炎を起こし血管閉塞の危険性もあります。
一方、中心静脈栄養は1日最大2500kcal程度を投与することが可能です。
中心静脈とは、心臓につながる太い静脈(上大静脈、下大静脈)。
上大静脈は、血流が多く一気に全身をめぐるため、高濃度の輸液でも薄められて血管や血球への影響が少なく済みます。
投与期間
抹消静脈栄養の投与期間は、7~10日程度 。
高濃度の糖質やアミノ酸を投与できない抹消静脈栄養は、長期間で糖質不足を引き起こすため投与期間には限りがあります。
対して、中心静脈栄養は必要な栄養素を長期間にわたり投与することが可能です。
このため食事がとれない期間が、7~10日程度であれば末梢静脈栄養。
それ以上の長期の場合は、中心静脈栄養法が選択されます。
「中心静脈栄養」メリット・デメリット
母は、CVポートを増設して中心静脈栄養を行っています。
メリット・デメリットは、下記のとおりです。
メリット
- 在宅で栄養療法できる
- 消化管が機能していなくても、水分・栄養の補給が可能
- 長期間、高濃度の投与が可能
- 穿刺する回数が少なくて済む
- 外出や入浴が可能
中心静脈栄養の最大のメリットは、母のように病気の状態が安定している入院患者が自宅で療法できることです。
2・3番は、前述のとおり。
4・5番に関しては、中心静脈栄養は数日で針を刺し直さなければなりませんが今は週に1度です。
点滴台を移動させながらになりますが、点滴中でも比較的自由に動けます。
点滴していないときは、ルートを外せるので外出も可能です。
デメリット
- 感染症や合併症のリスク
- カテーテルを装着する際に手術が必要
- 消化管機能の低下
- 自宅で医療的な管理を行う必要があり、介護者に負担がかかる
- 入所できる施設が限られる
- 高カロリー輸液の価格が高い
最大のデメリットは、やはり感染症や合併症のリスクでしょう。
特に、感染症は最も起こりやすいトラブルです。
感染症については、こちらの記事に記載しています。
手術は、局所麻酔で30~60分くらいで終わる簡単なものですが、体に埋め込むため小手術が必要です。
3番は、点滴だけの栄養摂取に頼って胃や腸を使わないと、食べるための筋力や消化管の機能が衰えてしまいます。
5番は、中心静脈栄養は医療処置が求められるため特別養護老人ホーム(特養)のような一般の施設の受け入れは難しくなるので気を付けてください。
アイキャッチ画像の高カロリー輸液の価格は、1割負担で1.303円。
週1回投与したとして1ヵ月5.212円の自己負担額になり、母が処方されている薬の中でも突出して高いです。
おわりに
高カロリー輸液の点滴について、解説しましたがいかがでしたか?
胃や腸など手術したとき、これらの気管を休ませることができること。
在宅療養だと、口からの食事が難しい方に長期の栄養補給が可能となるメリットがあります。
多少厄介なデメリットもありますが、自宅で療養できるメリットと天秤にかけて判断されると良いでしょう。
あと、自宅で高カロリー輸液を行うためには在宅医療の環境を整える必要があります。
必要なことについては、こちらの記事に記載していますのでご覧ください。