高額療養費制度は、比較的認知度が高くご存じの方も多いのではないでしょうか?
僕も、何となく自己負担額が約9万円を上限として超えた分は返ってくることぐらいは知っていましたし、20年前に母親が大腸がんになった際にも利用しましたが負担をさらに軽減する仕組みについては知りませんでした。
今回は、この高額療養費制度のポイントをまとめましたので参考にしてみてください。
目次
高額療養費制度とは?
大きな手術などで医療費の支払いが高額になったとき、支払いの上限を設けて医療負担を軽減する仕組みが高額療養費制度です。
通常、病院で診察や治療を受けるとかかった費用の1~3割を窓口で支払わなければなりませんが、一定の金額(自己負担限度額)を超えた分があとで払い戻されます。
この制度を利用するには、申請が必要です。
支給を受けられるのは、診療を受けた月の翌月から2年。
この期間なら、さかのぼって申請できます。
上限額は、年齢や所得に応じて定められており、70歳を区切りにそれ以上と未満とで設定が異なります。
申請は月単位で、1か月の間に医療機関や薬局の窓口で払った金額が対象です。
仮に、7月15日から8月15日まで入院した場合、7月と8月を合算することはできないので緊急でないようなら、病院と交渉して月初めからの入院に調整しておくと良いでしょう。
69歳以下の自己負担限度額の計算式
高額療養費制度における自己負担限度額は、収入によって5つの区分に分かれます。
区分 | 年収/標準報酬月額(または所得※1) | 1か月当たりの自己負担限度額(3回目まで) | 4回目以降 |
---|---|---|---|
ア | 年収約1,160万円~ 健保:標準報酬月額83万円以上 国保:基準所得が901万円超 |
252,600円+(総医療費-842,000円)×1% | 140,100円 |
イ | 年収約770万~約1,160万円 健保:標準報酬月額53万円以上 国保:基準所得600万円超 |
167,400円+(総医療費-558,000円)×1% | 93,000円 |
ウ | 年収約370万~約770万円 健保:標準報酬月額28万円以上 国保:基準所得が210万円超 |
80,100円+(総医療費-267,000円)×1% | 44,400円 |
エ | ~年収約370万円 健保:標準報酬月額26万円以下 国保:基準所得210万円以下 |
57,600円 | 44,400円 |
オ | 住民税非課税世帯(※2) | 35,400円 | 24,600円 |
※1 所得とは、総所得金額-基礎控除(33万円)です。 ※2 標準報酬月額が区分ア・イに該当する場合は、住民税非課税者であっても区分ア・イが適用されます。
同じ人が、同じ月内に、同じ医療機関に支払った自己負担額が自己負担限度額を超えた場合、超えた分が高額療養費として健康保険から戻ってきます。
例えば、標準報酬月額が35万円と標準報酬月額55万円の現役会社員が、手術・入院で100万円の医療費がかかったとします。
退院時に支払う金額は2人とも3割の30万円ですが、払い戻し額は前者が21万2570円で後者は12万8180円となります。
「区分ウ」標準報酬月額が35万円の方 計算式
80.100円+(100万円-267.000円)×1%=87.430円
30万円-87.430円=212.570円
87.430円が自己負担限度額になり、212.570円が戻ってきます。
「区分イ」標準報酬月額が55万円の方 計算式
167.400円+(100万円-558.000円)×1%=171.820円
30万円-171.820円=128180円
171.820円が自己負担限度額になり、128.180円が戻ってきます。
高額療養費が適用される条件と合算できるもの・できないもの
高額療養費制度が、世帯合算できることをご存じない方も多いと思います。
この制度が適用される条件や、合算できるもの・できないものは下記のとおりです。
- 同一の医療保険の加入者に限られる
- 医療機関ごとに別計算
- 同じ医療機関でも、医科と歯科、入院と外来は別計算
- 入院時の食事代など、保険がきかないものは合算不可
- 院外薬局の場合、金額に関わらず処方した医療機関分に合算可能
- 同じ世帯内(同一保険内)の家族であれば、ひと月21.000円以上の自己負担額については合算可能(1人が複数の医療機関ごとに、21.000円支払った場合も含む)
⑥同じ世帯内の合算例
●家族の場合、夫がA病院(外来)2.5000円+妻88.000円=113.000円
●一人の場合、A病院(外来)60.000円+B病院(外来)38.000円=98.000円
補足すると、共働き夫婦などで別々の健康保険に加入している場合や、健康保険の被保険者と後期高齢者医療制度の被保険者は同一世帯とは認められず医療費を合算することができません。
⑤の食事代以外にも、差額ベッド代、通常の出産や不妊治療の費用、先進医療にかかる費用など保険のきかないものは適用外です。
多数回該当について
多数回該当とは、直近1年間(12か月)で、ひとつの世帯で3回以上高額療養費制度を利用している場合、4回目からはさらに限度額が引き下げられる仕組みです。
年収にに応じた、多数該当の自己負担限度額を超えた分が高額療養費として支給されます。
特定疾病に該当する場合の高額療養費
著しく高額な医療費が必要となる特定疾病については、さらに自己負担の軽減を図る特例制度があります。
医療機関の窓口で「特定疾病療養受療証」を提示することで入院、外来とも医療費の1ヶ月の自己負担額が以下の適用となります。
特定疾病 | 自己負担限度額(月額) |
---|---|
人工腎臓を実施している慢性腎不全:人工透析治療 (70歳未満の高所得者) |
10,000円 (20,000) |
血友病 | 10,000円 |
抗ウイルス剤を投与している後天性免疫不全症候群:HIV感染者 | 10,000円 |
70歳以上の自己負担限度額の計算式
1か月の医療費の自己負担額が、表にある自己負担限度額を超えた場合、超えた分が高額療養費として健康保険から支給されます。
所得区分 | 自己負担限度額 | ||
---|---|---|---|
外来(個人ごと) | 外来・入院(世帯ごと) | ||
現役並み所得者 | Ⅲ 年収約1160万円~ 課税所得:690万円以上 標準報酬:月額 83万円以上 | 252,600円+(医療費-842,000円)×1% [4回目以降は 140,100円] | |
Ⅱ 年収約770万円~約1160万円 課税所得:380万円以上 標準報酬:53万~79万円 | 167,400円+(医療費-558,000円)×1% [4回目以降は 93,000円] | ||
Ⅰ 年収約370万~約770万円 課税所得:145万円以上 標準報酬: 28万~50万円 | 80,100円+(医療費-267,000円)×1% [4回目以降は 44,400円] | ||
一般 | 年収約156万~約370万円 課税所得:145万円未満 標準報酬:26万円以下 | 18.000円 (年間上限14万4.000円) | 57.600円 (4回目以降は44.400円) |
低所得者 | 住民税非課税世帯 | 8,000円 | 24,600円 |
住民税非課税世帯 (年金収入80万円以下等) | 15,000円 |
70歳未満の条件と異なる適用内容と計算例
70歳未満と同じ点は、月の1日から末日まで暦月ごとの受診について計算することや、入院時の食事代や保険のきかないものは合算不可です。
70歳未満と異なる点は、病院・診療所・歯科の区別はなく、複数の医療機関の自己負担は少額であってもまとめられます。
その際、外来は個人単位でまとめられますが、入院を含む自己負担額は世帯単位の合算になります。
計算例
一般世帯
A病院(外来)自己負担 7.000円
B病院(外来)自己負担 18.000円
C病院(入院)自己負担 57.600円
C病院(外来)自己負担 3.000円
①個人単位で「外来の限度額」が適用されます。
②世帯で①の「外来の限度額」も合わせ、「外来と入院を合わせた世帯単位の自己負担額」を適用します。
A病院(外来)7.000円+B病棟(外来)18.000円=25.000円⇒18.000円が限度額⇒7.000円が支給①
C病棟(外来)3.000円(18.000円の外来限度額を超えていないのでそのまま)
C病院(入院)57.000円(限度額までの支払い)
世帯での合算 最終的な外来自己負担
(夫の18.000円+妻の3.000円)+入院の自己負担57.600円=78.600円 78.600円-57.600円(世帯単位の自己負担限度額)=21.000円が支給②
この世帯の全体の最終的な高額療養費は、①7.000円+②21.000円=28.000円となり、手続きすると28.000円があとから戻ってきます。
高額療養費制度」の申請方法
高額療養費制度を利用するには、ご自身が加入している公的医療保険(健康保険、国民健康保険、共済保険、後期高齢者医療保険など)に申請書を提出します。
先に医療費を支払って、後から申請する手順
1.支払い時に医療費の自己負担分3割を支払います。
2.加入している健康保険に申請します
3.申請が認められれば、限度額を超えた分が払い戻されます。
後から申請すると、払い戻されるまでに3か月ほどかかるので注意してください。
事前に申請する手順
「限度額適用認定証」を医療機関に提示すれば、支払い時に自動的に限度額だけを支払えばよいので建て替えなくても済みます。
1.加入している健康保険の窓口に「限度額適用認定証」の発行を申請します
2.申請が認められたあと、限度額適用認定証が交付されます
3.支払い時に、保険証と限度額適用認定証を提出し、支払いをします。
この2つのどちらの申請方法でも自己負担額に変わりはありませんが、医療費が高額になる場合には「限度額適用認定証」の手続きをして事前の申請をおすすめします。
上限払になる「認定証」の手続きを!
上限払いの対象となるのは、保険医療機関、保険薬局、指定訪問看護事業者(訪問診療、訪問看護)などで受けた保険診療です。
医療機関窓口で「限度額適用認定証」や保険証などを提示すると、1か月の支払いが自己負担限度額までとなり、超える分は支払わなくて済みます。
年齢・所得によって事前の手続きが必要になります。
[70歳未満]
所得区分 | 医療機関窓口で提示するもの |
---|---|
ア~エ | 「限度額適用認定証」 |
オ | 「限度額適用・標準負担額減額認定証」 |
[70歳以上]
所得区分 | 70歳以上75歳未満 | 75歳以上 |
---|---|---|
現役並みⅢ | 「高齢受給者証」 | 「後期高齢者医療被保険者証」 |
現役並みⅠ、Ⅱ | 「限度額適用認定証」 | 「限度額適用認定証」 |
一般 | 「高齢受給者証」 | 「後期高齢者医療被保険者証」 |
住民税非課税世帯 | 「限度額適用認定証・標準負担額減額認定証」 |
上限払いになるためには、上記のものを病院や保険薬局などで提示しなければなりません。
表の太字になっている認定証については事前に保険者へ申請して交付を受けてください。
認定証や保険証などの提示がない場合は、従来どおりの支払いになります。
●同じ月に複数の医療機関を受診した場合は、それぞれの医療機関ごとに上限払いとなります。
●同じ月に入院・外来受診があった場合は、それぞれの上限払いとなります。
おわりに
今回は、高額療養費制度について解説しましたがいかがでしたか?
人生には、病気などで思わぬ出費が必要になることもあるかと思います。
そんなとき、上限額を超えた分を国が負担してくれるありがたい制度ですが、70歳以上の方がより利用しやすい制度となっているので、親の医療費が高額になる場合は必ず申請して限度額までの支払いに抑えましょう。